おっさん動くはず

実は合格発表を仲良しの友人と見に行った娘は、
大変な思いをして帰ってきた。
その友人が不合格だったのだ。
７９人も落ちる試験だったのだ。
誰かが落ちるわけなのだが、
彼女が落ちるのには納得がいかないらしい。

「〇〇が受かっていればよかったのに…」
晴れ晴れとしない気持ちで帰って来たらしい。
「残念だったねぇ～」
と抱きしめようとしたら
「そんなことされたら泣いてしまうよ」
と拒絶され、広げた両手をどうしたらいいのかわからなかったようだ。

そんなことがあった娘は、
自分の合格を素直に喜べなかったらしい。

おっさんは言う。
「世の中厳しいのぉ～。でも花ちゃんおめでとう！」
苦笑いで答えていた娘も
しつこいおっさんの言葉にだんだん素直に笑い出してきた。
「やっぱりうれしいんじゃん！」
「でもほら、喜べるような雰囲気でもなかったし…」
「でも、認められることは嬉しいよね」
「うん、うれしい」
やっと笑顔になった娘は、入学手続きの書類を持ってきた。
「教科書代と制服代と合わせて１０万円くらい４月５日までに用意してね！」
「えっ！俺が？」
驚いている風のおっさんに向かって娘が言った。
「世の中厳しいのぉ～。でも花ちゃんおめでとう！」


今日朝、髪を切ってくると娘が出かけた。
昨日もかみさんと服を買いに出かけていた。
ちょっとした合格成金の娘はファッションに目覚め始めた。

仕事から帰ってくると、
娘の足にはマニュキュアが塗られていた。
シャワーを浴びて出てくると、
「何色がいい？」と言われ
おっさんの足にもマニュキュアが塗られた。



「ゲッ！おかまみたい！」
と嬉しそうにする娘。
「悪くないなあ、ブログにアップしよっ」
と写真を撮るおっさん。

このブログを書き始めた頃
たばこが無いのに気づく。

いつもはサンダル履きで出かけるのだが、
この足じゃまずいだろう。
「あれ、どこいくの？」
靴下をはき始めたおっさんにかみさんが言う。
「たばこ買いにだけど、さすがにこれじゃまずいだろう」
そう言って、足を見せると二人して笑った。
「お父さんでも、やっぱりはずかしいの？」
娘が意地悪な目をした。
おっさんは言った。
「う～ん、まだ心の準備ができていないから…」
笑い声を背にたばこを買いに出かけるおっさんであった。